大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

青森地方裁判所 昭和62年(行ウ)7号 判決 1991年11月19日

青森県南津軽郡大鰐町大字大鰐字湯野川原九二番地二九号

原告

山中正美

右訴訟代理人弁護士

横山慶一

青森県弘前市大字本町二番地二号

被告

弘前税務署長 小瀬川郷太郎

右指定代理人

平尾雅世

阿部洋一

尾久浩二

山中周造

鳴海儀晴

千葉嘉昭

安孫子誠

大沼長四郎

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和六〇年九月二日原告の昭和五七年分所得税についてした更正のうち、総所得金額五四七万四六七二円を超える部分及び過小申告加算税の賦課決定を取り消す。

2  被告が昭和六〇年九月二日原告の昭和五八年分所得税についてした更正のうち、総所得金額四四六万六七五一円を超える部分及び過小申告加算税の賦課決定を取り消す。

3  被告が昭和六〇年九月二日原告の昭和五九年分所得税についてした更正のうち、総所得金額五一四万三四七二円を超える部分及び過小申告加算税の賦課決定を取り消す。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、し尿処理業を営むいわゆる白色申告者であるが、昭和五七年、昭和五八年及び昭和五九年の各年分(以下、「各係争年分」という。)の所得税について原告のした各確定申告、これに対する被告の各更正(以下、「本件各更正」という。)及び各過小申告加算税の賦課決定(以下、「本件各決定」という。)並びに国税不服審判所長がした審査裁決の経緯・内容は、別表一記載のとおりである。

2  しかしながら、本件各更正のうち請求の趣旨記載の各係争年分の総所得金額を超える部分は、いずれも原告の所得を過大に認定した違法があり、また、これを前提とした本件各決定もまた違法である。

よって、本件各更正のうち、請求の趣旨記載の部分及び本件各決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認め、同2は争う。

三  被告の主張

自己の各係争年分の総所得金額は、以下のとおり、昭和五七年分が七八二万八九八八円、昭和五八年分が七五五万九〇八四円、昭和五九年分が七九三万四七七六円であるから、いずれもその範囲内でされた本件各更正及びこれを前提とした本件各決定は適法である。

1  推計の必要性について

(1) 被告は、原告の各係争年分の確定申告書を検討したところ、右各申告書に記載された所得金額はいずれも原告の事業規模からみて極めて低いと認められたことなどから、右の各申告所得金額が適正であるか否かにつき、臨場調査により確認する必要があると判断した。

(2) 被告は、昭和六〇年四月二六日、右調査のため被告職員(以下「調査担当者」という。)を原告方へ臨場させたが、原告が在宅していなかったので、調査担当者は、原告の妻山中敬子に対し、同年五月二日に再度臨場する旨の原告への伝言を依頼し、原告方を退去した。

(3) 調査担当者は、同年五月二日、原告方に臨場し、原告に対して所得税の調査のため臨場した旨を告げ、調査に対する協力方を依頼するととも、原告の各係争年分の所得金額の計算に必要な帳簿書類等の提示を求めたが、原告は、「申告の内容はどこがおかしいのだ。何故調べに来なくてはいけないのだ。納得のいった以外のものは見せるわけにいかない。」などの言辞を繰り返すのみで、全く調査に応じようとしなかったので、調査担当者は、当日の調査を断念して原告方を退去した。

(4) 調査担当者は、同年五月七日から同年六月一二日までの間、前後七回にわたり、原告方に電話をし(うち四回は原告が不在とのことで原告の妻が応対した。)、調査に応じるよう、また、原告の都合の良い日時を連絡するよう反復要請したが、原告は、「自分がした申告の内容に誤りはない。何をそんなに調べる必要があるのか。その日は都合が悪い。」などと言ってこれに応じなかった。

(5) 調査担当者は、同年六月一七日、原告方に臨場したところ、その場に弘前民主商工会の会員七名と同事務局員一名が同席していた上、同事務局員が持参したテープレコーダーを作動させようとするなどしたため、原告に対し、第三者の立会の排除とテープレコーダーを作動させないことを要請した。

しかし、原告は、これに応じなかっただけでなく、「きちんと申告しているのに人を疑うのはやめろ。反面調査は絶対に許さない。」などと強弁して、調査担当者の調査への協力要請に応ぜず、かつ、帳簿書類等の提示要請にも応じなかった。

そこで、調査担当者は、原告方におけるこれ以上の調査の進展は望めないと判断し、今後原告の取引先等について反面調査を実施する旨を告げ、原告方を退去した。

以上の状況から、被告は、原告の帳簿、原始記録などに基づく原告の各係争年分の所得金額を実額で算出する直接資料を得ることができなかったため、やむなく推計により原告の事業所得を算出した。

2  同業者率等による原告の事業所得金額の推計について

前記1のとおり、原告の各係争年分についての実額による所得金額の算出が不可能であるため、被告は、以下のとおり、同業者率によって、原告の事業所得金額を算出した。

(一) 総収入金額

原告の総収入金額は、一般家庭等からし尿の汲取りを行ったことによる「し尿汲取収入」と浄化槽の清掃を行ったことによる「浄化槽清掃収入」で構成され、「浄化槽清掃収入」はさらに「汚泥の汲取収入」と「浄化槽清掃手数料」で構成されているが、汚泥の汲取りは、浄化槽清掃の際に浄化槽からし尿と同様の方法で行われ、汲み取った汚泥は、し尿の投入量に含めてし尿処理場に投入されており、かつ、し尿と汚泥の区分けがされていない実情から、し尿及び汚泥のそれぞれの投入量の実額による計算区分は不可能である。

そこで、被告は、原告の各係争年分の総収入金額を、し尿及び汚泥の汲取収入金額の合計(以下、「総汲取収入金額」という。)と浄化槽清掃手数料に区分し、各々次のとおり収入金額を算出した。

(1) 総汲取収入金額

被告は、原告が投入したし尿及び汚泥の投入量を管理している弘前地区環境整備事務組合に対する調査によって、原告がし尿処理場(大鰐町・南部衛生センター)に投入した各係争年分に係るし尿及び汚泥の総投入量と原告の得意先が所在する大鰐地区におけるし尿の汲取料金の単価を把握し、その結果に基づき、原告の各係争年分のし尿及び汚泥の総汲取収入金額を、別表二記載のとおり算出した。

(2) 浄化槽清掃手数料の金額

<1> 浄化槽清掃手数料については、原告と事業内容及び事業規模などが類似すると認められる同業者(以下、「同業者」という。)を後記<2>により選定し、これら同業者における各係争年分の平均的な浄化槽清掃手数料比率(総収入金額に対する浄化槽清掃手数料の割合)を求め、この平均浄化槽清掃手数料比率を一・〇〇から差し引いた後の比率をもって総汲取収入金額を除して原告の各係争年分の総収入金額を算出し、この総収入金額から総汲取収入金額を差し引いて原告の各係争年分の浄化槽清掃手数料を推計した。

<2> 同業者の選定に当たっては、次の条件の全てに該当するものとした。

イ 弘前税務署及びこれに隣接する税務署管内でし尿の汲取り及び浄化槽の清掃を業とする個人の青色申告者で年間を通じて両事業を営んでいる者(他の業種目を兼業している者でその収入金額の区分が不明なものを除く。)

ロ 更正又は決定処分を行った者のうち、国税通則法の規定に基づく不服申立てがされ現在審理中の者又は訴訟係属中の者以外の者

ハ し尿処理場に対するし尿及び汚泥の投入量が原告のし尿及び汚泥の投入量の半分以上二倍以内(以下「倍半基準」という。)である者

<3> 右基準による選定の結果、昭和五七年分二件、五八年分三件、五九年分三件の同業者が選定され、これら同業者の総収入金額及び浄化槽清掃手数料を基に算出された同業者の各係争年分の平均浄化槽清掃手数料比率は、別表三記載のとおりである。

(3) 総収入金額

原告の各係争年分の総汲取収入金額と浄化槽清掃手数料を合計して算出した総収入金額は、別表四記載のとおりである。

(二) 必要経費の金額

(1) 原告の各係争年分の総収入金額から控除される必要経費の金額のうち、一般経費(庸人費、地代家賃、借入金利等以外の必要経費をいう。)の金額は、前記各同業者の各係争年分の一般経費率(総収入金額に対する一般経費の金額の割合)を求め、この三件(昭和五七年分は二件)の同業者の平均一般経費率を原告の各係争年分の総収入金額に乗じて原告の各係争年分の一般経費の金額を推計した。

(2) 右同業者の総収入金額及び一般経費の金額を基に算出された各係争年分の同業者の平均一般経費率は、別表五記載のとおりである。

(3) 右同業者の平均一般経費率によって算出した原告の各係争年分の一般経費の金額は、別表六記載のとおりである。

(4) その他の経費については、原告において事業用にかかる経費の存在及び支払の事実は認められないから、原告の各係争年分の必要経費の金額は、右一般経費の金額となる。

(三) 事業所得の金額

被告は、以上のようにして算出した原告の各係争年分の総収入金額並びに必要経費の金額に基づき、その事業所得金額を、別表七記載のとおり、昭和五七年六九四万八九八八円、昭和五八年七五五万九〇八四円、昭和五九年七九三万四七七六円とそれぞれ推計した。

3  雑所得の金額(昭和五七年分)

東奥信用金庫大鰐支店に預け入れしていた定期積立金の給付補填金三八万円である。

4  分離短期譲渡所得の金額(昭和五七年分)

原告の申告(五〇万円)を認めた金額である。

5  総所得金額または合計所得金額

原告の各係争年分の総所得金額又は事業所得と他の所得を合計した合計所得金額は、別表八記載のとおり、昭和五七年分が七八二万八九八八円、同五八年分が七五五万九〇八四円、同五九年分が七九三万四七七六円である。

6  以上のとおり、本件各更正は、原告の各係争年分について総所得金額または合計所得金額の範囲内においてされたものであるから、いずれも適法である。

また、本件各更正により納付すべき税額の基礎となった事実が、各更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条一項の規定に基づいてさた各過小申告加算税の賦課決定(本件各決定)を適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1のうち、被告の調査担当者が、昭和六〇年四月二六日、同年五月二日及び同年六月一七日に原告の各係争年分の所得の調査のため原告方を訪ねたこと、同年六月一七日の調査の際に弘前民主商工会の会員が立ち会っていたこと、原告が調査担当者に帳簿書類を提示しなかったことは認め、その余は否認する。

2  同2は争う。

3  同3、4は認める。

4  同5、6は争う。

五  原告の反論

1  推計の必要性の欠如

被告は、原告が被告の税務調査に協力しなかったから推計が必要であった旨主張するが、被告の調査はおざなりであり、被告が原告の各係争年分の事業所得について推計を行ったのは推計の必要性を欠く拙速な行為である。

すなわち、被告の調査担当者が原告の事務所に赴いたのは三度であるが、最初の訪問のときは原告不在であったから、実質的には税務調査は二度しか行われていない。そして、原告は、調査の必要性を納得できれば、調査に協力する意思を持っていたところ、調査担当者は、原告に対し調査の必要性を納得させうるような説明を何ら行わなかったのであるから、そのような段階で原告が帳簿類を調査担当者に提示しなければならない理由はない。しかも、三度目の税務調査の際には、調査担当者は、原告以外に原告の知人や原告の加入する民主商工会の会員が一緒にいたことに対して、「守秘義務」を盾にとり同席を拒否したため、結局、実質的な話し合いがされなかった。

このように、被告の本件各更正の過程で原告が帳簿類を提示するに至らなかったのは、原告が積極的に帳簿類の提示を拒否したことによるものではなく、被告の調査担当者が調査の必要性を説明しなかったためである。そして、被告の調査担当者は、原告が知人や民主商工会の会員を同席させようとするとその後の調査の努力もせずに、一方的に調査を打ち切ったのであるから、結局、本件においては、原告が調査に協力しなかったと認めることはできず、被告が原告の事業所得について推計課税を行ったのは推計の必要性を欠如した拙速な行為であったというべきである。

2  推計の計算の誤り

被告は、本訴において、各係争年分のし尿及び汚泥の総投入量に単位当たりの汲取料金を乗じて総汲取収入金額を算出するとともに、原告の総収入金額は、し尿汲取収入と浄化槽清掃収入により構成され、浄化槽清掃収入は、汚泥汲取収入と浄化槽清掃手数料により構成されているとして、右総汲取収入金額と「平均浄化槽清掃手数料比率(総収入金額に対する浄化槽清掃手数料の割合)」を基に原告の浄化槽清掃手数料を推計の上、原告の総収入金額を算出した旨主張している。しかし、被告は、異議決定及び審査請求に対する国税不服審判所の裁決時においては、浄化槽清掃収入の内訳を明確にしないまま、一貫して「(平均)浄化槽清掃収入・同比率」を基に原告の総収入金額を推計した旨主張していたのであり、このことに照らせば、本件各更正において、「浄化槽清掃収入」と「浄化槽清掃手数料」とを区別することなくとらえ、汚泥汲取収入を「浄化槽清掃収入」に含めて計算した可能性があり、ひいては汚泥汲取収入が二重に計上されて、原告の総収入金額が過大に認定されている疑いが極めて強い。

ちなみに、原告の資料によれば、原告の各係争年分の浄化槽清掃手数料比率は、昭和五七年分は九・〇二パーセント、同五八年分は八・〇七パーセント、同五九年分は八・七三パーセントとなり、この点からも被告の推計に合理性がないことが明らかである。

3  推計の非合理性

被告は、同業者を選定するに際し、し尿及び汚泥の総投入量のみを基礎に営業内容の類似した業者を選定した旨主張しているが、各市町村によって浄化槽を設置してている家庭・事業所の割合は異なっているから、営業地域が市町村ごとに限定されるし尿処理業者の場合は、浄化槽の設置割合の違いがその営業内容にストレートに反映されることになる。したがって、被告主張のようにし尿及び汚泥の総投入量のみを基礎として営業内容がほぼ同一であると推定することは不合理である。

4  推計の恣意性

被告は、本件各更正時に選定した同業者四件の内二件を本訴後に同業者率の算定根拠から除外し、代わりに本件各処分(本件各更正及び本件各決定)及び仙台国税不服審判所の裁決の過程で選定されなかった業者一件を新たに選定するなど、その同業者の選定は極めて恣意的であるから、これに基づいて推計された総所得金額は合理性を欠くものというべきである。

六  原告の反論に対する認否

すべて争う。

七  被告の再反論

1  原告の反論2について

被告が主張する「浄化槽清掃手数料・同比率」は、被告の異議決定書、審査請求に対する答弁書及び国税不服審判所の裁決書中の「浄化槽清掃収入・同比率」と同一の概念である。

そして、前記のとおり、被告は、原告の総収入金額を総汲取収入金額と浄化槽清掃手数料との合計により算定し、右浄化槽清掃手数料の算定にあたっては、同業者の平均浄化槽清掃手数料比率を適用しているが、右平均浄化槽清掃手数料比率は、同業者の総収入金額から総汲取収入金額を差し引いた金額を浄化槽清掃手数料とした上で計算しているのであるから、汚泥の汲取収入金額が浄化槽清掃手数料に含まれることはない。したがって、原告の主張は失当である。

なお、原告が算出した浄化槽清掃手数料比率は不完全な資料に基づくものであるから、本件推計の合理性を左右するものではない。

2  原告の反論3について

被告は、本訴において、原告の住所地等を所轄する弘前税務署及びこれに隣接する黒石税務署管内の原告と事業規模の類似し同業者三件(昭和五七年分については二件)の平均浄化槽清掃手数料比率を用いて、原告の浄化槽清掃手数料収入を推計したが、一般に、同業者率による推計がいわゆる平均値による推計である場合には、基本的には、同業者に通常存在する程度の営業条件の差異は捨象されると考えてよいから、営業条件の差異が平均値による推計自体を全く不合理ならしめる程度に顕著なものでないかぎり推計の合理性は是認されるべきである。そして、原告と右同業者との間にはかかる顕著な営業条件の差異は認められないから、本件推計には合理性がある。

3  原告の反論4について

被告の従前に主張した五所川原市の同業者二件の昭和五七年ないし同五九年の青色申告決算書に計上されている総収入金額は、そのし尿及び汚泥の総投入量からみて多額の計上漏れが想定され、しかも、本件各更正の再調査により、右同業者二件に係る「浄化槽清掃手数料」は、精通者の意見に基づく汚泥割合(約一割)に基づいて算出された汚泥の汲取料相当額を浄化槽清掃収入から控除して計算されたもので合理的な計算に基づくものでないことが判明したため、適正な同業者率を求める上で合理性がないものと判断し、本件同業者から除外することにしたものである。

また、被告が新たに選定した同業者は、本件各更正時には調査中であったが、「所得税課税実績報告書」(乙第一一号証)作成時には、調査が終了していたものであり、被告は、仙台国税局長の通達による選定基準に基づき、この同業者を選定したものであるから、右選定に恣意が介入する余地はない。

したがって、被告の同業者の除外及び新たな選定は極めて合理的なものであるから、原告の主張は失当である。

第三証拠

本件記録中の証拠目録の記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  推計課税の必要性について

1  いずれも成立に争いのない乙第四、第六号証の各一ないし三、第七号証、証人高橋和則の証言により真正に成立したと認められる乙第一六号証、証人高橋和則の証言及び原告本人尋問の結果(一部)を総合すると、次の事実を認めることができる。

(1)  被告係官高橋和則(以下、「高橋係官」という。)は、昭和六〇年四月二六日、原告の本件各係争年分の所得金額の税務調査のため原告方へ赴いたが(争いがない。)、原告が不在であったため、原告の妻山中敦子に対し、同年五月二日に再度臨場する旨の原告への伝言を依頼し、原告方を退去した。

(2)  高橋係官は、同年五月二日、原告方へ赴き(争いがない。)、原告に対して所得税の調査のため臨場した旨を告げ、調査に対する協力方を依頼するとともに、各係争年分の所得金額を算出するのに必要な帳簿書類等の提示を求めたところ、原告が調査理由を質問したので、高橋係官は、原告の申告が正しいかどうかの確認をするための調査である旨説明した。しかし、原告は、これに納得せず、帳簿はあるけれども見せられないと言って帳簿書類等の提示をせず、調査に応じようとしなかったので、高橋係官は当日の調査を断念して原告方を退去した。

(3)  高橋係官は、同年五月七日から同年六月一二日までの間、前後七回にわたり原告方に電話をし、原告が在宅していた同年五月八日、同月二七日及び同月三〇日には原告自身に調査への協力を依頼したが、原告は、同年五月二七日の電話で、民主商工会に相談したら税務署の調査に応じる必要はないと言われたとして調査への協力を拒否するとともに、民主商工会の関係者の立会を認めるように主張したので、高橋係官は、公務員には守秘義務があるので第三者の立会のもとでの調査はできない旨回答した。

(4)  高橋係官は、同年六月一七日、同係官の上司である石黒統括調査官とともに原告方へ赴いたところ(争いがない。)、その場には民主商工会の会員ら七名と同事務局員一名が立ち会っており、事務局員は持参したテープレコーダーを作動させようとするなどしたため、高橋係官らは、原告に対し、公務員の守秘義務を理由に第三者の立会の排除とテープレコーダーを作動させないことを要請した。

しかし、原告は、これに応じないばかりか、反面調査は絶対に許さないなどと荒い口調で話すなど終始喧嘩腰であって、高橋係官らの調査への協力要請に応ぜず、かつ、帳簿書類等の提示要請にも応じなかった(帳簿書類の不提示につき、争いがない。)。そのため、高橋係官らは、原告方におけるこれ以上の調査の進展は望めないと判断し、原告方を退去した。

(5)  高橋係官らは、三回にわたる原告方への臨場調査と調査への協力要請にもかかわらず、原告の協力が得られなかったため、帳簿書類等に基づいた実額による所得計算は不可能であり、推計の方法によって原告の各係争年分の所得金額を算出するのもやむを得ないと判断した。

以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠と対比して採用することができず、他に右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によれば、被告は、原告が本件調査に対し終始非協力的な態度をとっていたため、原告の所得金額を実額で把握することができなかったと認められるから、本件各更正時において原告の所得金額を推計により認定する必要性があったというべきである。

2(一)  これに対し、原告は、原告が帳簿書類等の提示に応じなかったのは、被告の調査担当者が調査の必要性を説明しなかったためであると主張している。

しかしながら、所得税法二三四条一項は質問検査権の行使に際し、調査の理由を開示すべきことを要件としてはおらず、他にこの点を義務付ける規定はないこと、申告書に誤りがあるかどうか、誤りがあるとしてどこにあるのかということは、帳簿書類等を検討しなければ判別できないことからすれば、調査に際し、個別的・具体的な調査の理由を説明することが必要であると解することはできず、調査の理由ないし必要性を開示するか否か、これを開示するとしてどの程度開示するかは、税務職員の合理的な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。

前認定の事実によれば、高橋係官は、二回目の臨場調査の際に、原告に対し、原告の申告が正しいかどうかの確認をするための調査である旨説明したのであるから、調査理由の開示が全くなかったとはいえず、また、右の程度の開示でも税務職員の合理的な裁量の範囲内のものであるというべきである。

したがって、被告の調査担当者が調査理由を説明しなかったことを理由に帳簿書類等の提示に応じなかった原告の対応は正当なものとみることはできないから、原告の右主張は理由がない。

(二)  また、原告は、被告の調査担当者が調査を一方的に打ち切ったのは拙速な行為であり、推計課税の必要性がないと主張する。

しかしながら、前記のとおり税務調査に際し調査の理由を具体的に説明する必要はなく、また税務調査にあたっては調査の内容が被調査者のみならず、その取引の相手方である第三者の秘密に及ぶことが少なくないことからして、被調査者が守秘義務を負わない第三者の立会を要求する権利があるということはできず、税務調査担当者が調査に際し、このような第三者の立会を拒否するかどうかはその裁量事項に属するから、第三者の立会を拒んでも違法であるということはできない。

そして、前認定の事実によれば、原告は、二回にわたる本件調査に際し、高橋係官らの再三にわたる調査協力要請及び帳簿書類等の提示要請にもかかわらず、調査に対し非協力的な態度を示し、高橋係官の調査理由の説明に納得しないばかりか、高橋係官らが第三者の立会を拒否したのに、これを要求して帳簿書類等の提示要請に応じようとしなかったために調査が進展しなかったのであるから、高橋係官らがそれ以上の調査は望めないとして調査を打ち切ったとしても、これをもって違法であるということはできない。

したがって、被告が原告の各係争年分の収入を推計によって算出する必要性があったことを否定することはできないから、原告の右主張は理由がない。

三  推計課税の合理性について

1  総収入金額について

前掲乙第四、第六号証の各一ないし三、第七号証、成立に争いのない乙第八号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第九号証の一ないし三、証人高橋明の証言により真正に成立したと認められる乙第一〇ないし第一四号証、証人高橋和則の証言により真正に成立したと認められる乙第一七号証、証人高橋明、同高橋和則の各証言及び原告本人尋問の結果(一部)を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(1)  原告の総収入金額は、一般家庭らからし尿の汲取りを行ったことによる「し尿汲取収入」と浄化槽の清掃を行ったことによる「浄化槽清掃収入」とで構成され、「浄化槽清掃収入」はさらに「汚泥の汲取収入」と「浄化槽清掃手数料」とに分けられるが、汚泥の汲取りは、浄化槽清掃の際に浄化槽からし尿と同様の方法で行われ、汲み取った汚泥は、し尿の投入量に含めてし尿処理場に投入されており、かつ、し尿と汚泥の区分けがされていないことから、し尿及び汚泥のそれぞれの投入量の実額を求めることは不可能である。

(2)  そこで、被告は、原告の各係争年分の総収入金額をし尿及び汚泥の汲取収入金額の合計(総汲取収入金額)と浄化槽清掃手数料に区分し、総汲取収入については、原告が投入したし尿及び汚泥の投入量を管理している弘前地区環境整備事務組合に対する調査によって、原告がし尿処理場(大鰐町・南部衛生センター)に投入した各係争年分に係るし尿及び汚泥の総投入量と原告の得意先が所在する大鰐地区におけるし尿の汲取料金の単価を把握し、その結果に基づいて、原告の各係争年分の総汲取収入金額が算出した。その内容は、別表二記載のとおりである。

(3)  そして、被告は、本件各更正にあたり、浄化槽の維持管理清掃収入(異議決定書及び決裁書上の浄化槽清掃収入、本訴における浄化槽清掃手数料に該当する。)については、原告と事業内容及び事業規模などが類似すると認められる同業者を選定し、これら同業者における各係争年分の平均浄化槽清掃手数料比率(総収入金額に対する浄化槽維持管理清掃収入の割合の平均)を求め、この平均浄化槽清掃手数料比率を一・〇〇から差し引いた後の比率をもって前記総汲取収入金額を除して原告の各係争年分の総収入金額を算出し、この総収入金額から右総汲取収入金額を差し引くことによって原告の各係争年分の浄化槽清掃手数料を推計することとした。

そこで、被告は、弘前税務署及びこれに隣接する黒石税務署及び五所川原税務署の管内で各係争年分の所得税の確定申告書を青色申告書により提出している衛生業を営む個人事業者のうち、次のいずれの基準にも該当する納税者を原告の類似同業者として別表九記載のとおりA、B、C、Dの四件の業者を選定した。右同業者の平均浄化槽清掃手数料比率は同表記載のとおりであった。

<1> し尿の汲取り及び浄化槽の清掃を業とする個人の青色申告者で年間を通じて両事業を営んでいる者(ただし、他の業種目を兼業している者でその収入金額が区分できない者を除く。)

<2> 更正又は決定処分を行った者のうち、国税通則法の規定に基づく不服申立てがなされ現在審理中の者又は訴訟係属中の者以外の者

<3> し尿処理場に対するし尿及び汚泥の投入量が次の範囲内(原告のし尿及び汚泥の投入量の半分以上二倍以下=倍半基準内)である者

昭和五七年分 一〇六一・八二キロリットル以上四二四七・二八キロリットル以下

昭和五八年分 一一〇五・四七キロリットル以上四四二二・八八キロリットル以下

昭和五九年分 一一〇八・八〇キロリットル以上四四三五・二〇キロリットル以下

(4)  右四件の同業者の平均浄化槽清掃手数料比率を基に各係争年分の原告の総収入金額を算定すると、別表一〇記載のとおりとなる。

(5)  本訴提起後、別表九記載のC、Dの各業者の浄化槽清掃手数料の金額が、同表記載のとおり各係争年分の各年毎に大きく変動しており、その整合性に疑義が生じたことから、その変動理由の解明のため、仙台国税局長名をもって同業者C、Dの住所地等を所轄する五所川原税務署長に対し照会を行い、その照会に対する回答書を検討したところ、同業者C、Dの各係争年分の浄化槽の取扱件数に大きな変動は認められないこと、右同業者C、Dの総収入金額には、脱漏のあることが推測され、正しい総収入金額が不明であること、五所川原税務署長が被告に対して回答した同業者C、Dに係る浄化槽清掃手数料の金額については、地方公共団体から聴取した浄化槽清掃収入から汚泥の汲取料相当額を控除して算出したものであるが、この汚泥の汲取料相当額は精通者の意見に基づく汚泥割合(約一割)により計算したものであり、結局、同業者C、Dに係る「浄化槽清掃手数料」の金額は、合理的な計算に基づくものではないことが判明したので、被告は、仙台国税局長の定めた選定基準に基づき、本件各更正時には調査中であったが、その後調査が終了した同業者E(別表三の同業者Cと同じ)を新たに選定し(ただし、昭和五七年分については、し尿及び汚泥の総投入量が、前記三1(3)<3>の基準を超えるため、同年分の同業者には含めなかった)、その結果、各係争年分の同業者の平均浄化槽清掃手数料比率は、別表三記載のとおりとなり、原告の浄化槽清掃手数料は別表四記載のとおりとなった。

(6)  右のとおり算定し直した原告の浄化槽清掃手数料によれば、原告の総収入金額は、別表四記載のとおりとなる。

以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分はにわかに信用することができない。

2  必要経費の金額について

前掲乙第四、第六号証の各一ないし三、第七、第八号証、第九号証の一ないし三、第一〇ないし第一四号証、第一七号証、証人高橋明、同高橋和則及び原告本人尋問の結果を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(1)  被告は、原告の各係争年分の総収入金額から控除される必要経費の金額のうち、一般経費の金額については、同業者の各係争年分の一般経費率を求め、この同業者の平均一般経費率を原告の各係争年分の総収入金額に乗じて算出することとし、本件各更正にあたって前記三1(3)記載のとおり、同業者四件を選定したが、本訴提起後、同業者C、Dを同Eに差し替えた。その結果、各係争年分の同業者の一般経費率は別表五記載のとおりとなり、原告の各係争年分の一般経費の金額は、別表六記載のとおりとなる。

(2)  その他の経費については、原告において事業用に係る経費の存在及び支払の事実は認められない。

以上の事実を認めることができ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分はにわかに信用することができない。

3  右1、2に認定した事実によれば、本訴において、被告により選定された同業者は、結局三名(昭和五七年については二名)にすぎないものの、原告と同様に弘前税務署管内またはこれに隣接する税務署管内でし尿の汲取り及び浄化槽の清掃の両事業を営む個人事業者であり、かつ、し尿処理場に対するし尿及び汚泥の挿入量が原告のし尿及び汚泥の投入量の二分の一から二倍までの範囲内(倍半基準内)にある者であるから、業種、事業場所、個人で事業を営むという営業形態、し尿及び汚泥の投入量の点において原告と類似性を有する同業者というべきである。

なお、被告の採用したいわゆる倍半基準は、同業者比率法において事業規模の類似する同業者を抽出するための基準として合理的なものと一般に承認されている。

そして、被告は、し尿及び浄化槽の清掃の両事業を営む者のなかから、前記の各条件を充足する者全員を機械的に抽出しているから、選定過程に恣意が介在する余地はなく、また、選定された同業者はいずれも帳簿書類の完備された青色申告者であり、その申告は税務署長によって是認されていることに照らすと、資料の正確性も担保されているものというべきである。

したがって、前記の平均浄化槽清掃手数料比率及び一般経費率を適用して原告の総収入金額及び一般経費を推計することには合理性があるということができる。

4  原告は、被告の本件推計について次のような疑問があると主張しているので、以下、原告の主張について判断する。

(1)  まず、原告は、被告は本訴では、「浄化槽清掃手数料・平均浄化槽清掃手数料比率」を基に原告の浄化槽清掃手数料を推計の上原告の総収入金額を算出したと主張しているが、異議決定及び審査請求に対する国税不服審判所の裁決時においては、浄化槽清掃収入の内訳を明確にしないまま、一貫して「浄化槽清掃収入・平均浄化槽収入比率を基に浄化槽清掃収入を推計の上原告の総収入金額を算出したと主張していたのであって、この点からすれば、本件各更正において、「浄化槽清掃収入」と「浄化槽清掃手数料」とを区別することなくとらえ、汚泥汲取収入を「浄化槽清掃収入」に含めて計算した可能性があり、ひいては汚泥汲取収入が二重に計上されて、原告の総収入金額が過大に認定された疑いがある旨主張している。

しかしながら、前掲乙第一七号証及び証人高橋和則の証言によれば、被告が本訴で主張している「浄化槽清掃手数料・平均浄化槽清掃手数料比率」と、異議決定及び国税不服審判所の裁決書で使用されている「浄化槽清掃収入・平均浄化槽収入比率」とは、別表一一記載のとおり、同一の収入(総収入から総汲取収入を差し引いたもの)を別の言葉で説明したに過ぎず、両者は実質的には同一のものであり、後者の「浄化槽清掃収入・平均浄化槽収入比率」の中には「汚泥の汲取収入」は入っていないことが認められる。したがって、「汚泥の汲取収入」が二重に計算されているとはいえないから、原告の右主張は理由がない。

また、原告は、原告の各係争年分の浄化槽清掃手数料比率を昭和五七年分は九・〇二パーセント、同五八年分は八・〇七パーセント、同五九年分は八・七三パーセントとそれぞれ算出し、この点からも被告の本件推計には合理性がないと主張し、甲第三号証の一ないし一四〇(し尿浄化槽維持管理報告書綴)、第四号証の一ないし二一七(領収書綴)、第五号証の一ないし八一(契約書)、第六号証(浄化槽設置者名簿)並びにこれらに基づき作成した甲第一号証(浄化槽収入年度別一覧表)及び第二号証(浄化槽汚泥くみとり量年度別一覧表)を提出している。

しかしながら、成立に争いのない乙第七号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一五号証及び原告本人尋問の結果によれば、し尿浄化槽維持管理報告書及び領収書は、本来はそれぞれ五〇枚綴りとなっているが、提出された甲第三号証では、四二枚(昭和五八年八月三〇日から同五九年五月一二日までの分)と四五枚(同月一五日から同年一一月六日までの分)、甲第四号証ではそれぞれ四二枚(昭和五八年一一月三〇日から同五九年五月三〇日までの分)、四四枚(同日から同年九月二九日までの分)、四九枚(同年一〇月五日から昭和六〇年五月三〇日までの分)しか綴られておらず、その一部が欠落していること、甲第一号証には、し尿浄化槽維持管理報告書及び領収書控があるのに浄化槽清掃収入の記載がないものが散見され、記載漏れがあること、逆に甲第一号証に浄化槽収入があったと記載されているのに、第三号証のし尿浄化槽維持管理報告書綴にはその記載が存在しないものが昭和五八年分について二七件あること、浄化槽設置者名簿には原告の浄化槽清掃に関する全ての取引先が記載されているわけではないこと、原告自身、し尿浄化槽維持管理報告書及び領収書を全受注件数について作成しているわけではないことを自認していることが認められる。

右事実からすれば、前掲甲第一ないし第六号証はその内容の正確性を保し難く、直ちに信用することができないから、原告がこれら不完全な資料に基づいて算出した前記浄化槽清掃手数料比率は、本件推計の合理性を疑わしめるに足りないというべきである。したがって、原告の右主張は理由がない。

(2)  次に、原告は、各市町村における浄化槽を設置している家庭・事業所の割合は異なっているところ、営業地域が市町村ごとに限定されるし尿処理業者の場合は、浄化槽の設置割合の違いがその営業内容にストレートに反映されることになるから、被告主張のように、し尿及び汚泥の総投入量のみを基礎として営業内容がほぼ同一であると推定することはできず、本件推計は合理性を欠く旨主張している。

しかしながら、同業者の平均値による推計の場合には、業者間に通常存在する程度の営業条件の差異は無視し得るのであり、地域性などの個別的営業条件の違いは、それが平均値による推計を不合理ならしめるほどの顕著なものでない限り斟酌することを要しないと解すべきところ、市町村ごとの浄化槽の設置割合の相違がかかる程度まで営業条件の相違をもたらすことについてはこれを認めるべき証拠はないから、右主張は採用することができない。

なお、本件で選定された同業者は結局三名(昭和五七年については二名)にすぎないが、同一地区に他に適切な類似同業者がいないのであるから、これらとの対比によって推計することには合理性があるというべきである。

また、原告本人尋問の結果中には、浄化槽清掃の取扱件数が自分と見合った業者であるという点が同業者選択の基準となっていないから本件推計には疑問がある旨の供述があるが、そもそも、原告の浄化槽清掃取扱件数自体、原告が税務調査に協力しなかったため、これを把握することができなかったこと、顧客の異動があるために取扱件数を正確に把握することは困難であること及び浄化槽の容量は一律でないので、取扱件数から事業規模の類似性を判断することは困難であことからすると、本件推計にあたって浄化槽清掃の取扱件数を同業者の選定基準に含めなかったことは何ら不合理ではないというべきである。

したがって、原告の右主張は理由がない。

(3)  さらに、原告は、被告は本件各更正時に選定した同業者四件の内二件を本訴後に同業者率の算定根拠から除外し、代わりに本件各処分及び仙台国税不服審判所の裁決の過程で選定されなかった業者一件を新たに選定しており、その同業者の選定は極めて恣意的であり、これに基づいて推計された原告の総所得金額も合理性を欠く旨主張している。

しかしながら、税務署長は、更正処分取消訴訟において、更正後に収集された資料によって更正が正当である旨を主張することも許されるものと解するのが相当であるところ、本件においては、前記のとおり、被告が設定した推計の基となる同業者の選定基準は、本件各更正及び本訴を通じ同一であること、被告は、し尿の汲取り及び浄化槽の清掃の両事業を営む者の中から、被告が設定した前記の各条件を充足する者全員を機械的に抽出しているから、選定過程に恣意が介在するおそれはそもそもないこと、本件各更正当時選定した同業者四件の内二件を本訴後に同業者からはずしたのは、さきに認定したとおり、右二件の同業者の浄化槽清掃手数料の金額が各年毎に大きく変動して、その計算の合理性に疑問が生じたためであること、新たに選定した一件の同業者は、本件各更正当時は調査中であったため同業者に選定されなかったに過ぎないことからすれば、本件の同業者の変更及び新たな選定は合理的なものであり、その選定が恣意的に行われたと認めることはできない。

したがって、原告の右主張は理由がない。

5  事業所得の金額について

以上によれば、被告の原告の各係争年分の総収入金額は別表四記載のとおりとなり、必要経費(一般経費)の金額は別表六記載のとおりとなるから、原告の各係争年分の事業所得は、被告主張のとおり別表七記載の金額となる。

四  総所得金額について

前認定のとおり、原告の各係争年分の事業所得は別表七記載のとおりであり、被告の昭和五十七年分の雑所得金額(五〇万円)と分離短期所得金額(五〇万円)については、当事者間に争いがない。

したがって、原告の各係争年分の総所得金額は、被告主張の別表八記載の金額となる。

そうすると、本件各更正は、いずれも各係争年分について右総所得金額の範囲内でされたものであるから、適法であり、これに伴う本件各決定も適法である。

五  結論

以上の次第であり、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野剛 裁判官 佐藤道明 裁判官 田邊浩典)

別表一

昭和五七年分

<省略>

右区分の確定申告及び異議申立額における事業所得金額と総所得金額との差額五〇万円は、分離短期譲渡所得の金額であり、また更正額における事業所得金額と総所得金額の差額八八万円は、右譲渡所得金額五〇万円と雑所得金額三八万円(原告が東奥信用金庫大鰐支店に預け入れした定期積立金に対する給付補填金)を合計したものである。

昭和五八年分

<省略>

昭和五九年分

<省略>

別表二

<省略>

別表三

昭和五七年分

<省略>

昭和五八年分

<省略>

昭和五九年分

<省略>

別表四

<省略>

別表五

昭和五七年分 同業者の平均一般経費率 四三・一五%

<省略>

昭和五八年分

<省略>

昭和五九年分

<省略>

別表六

<省略>

別表七

<省略>

別表八

<省略>

別表九

昭和五七年分

<省略>

昭和五八年分

<省略>

昭和五九年分

<省略>

別表一〇

<省略>

別表一一

○収入及び所得の計算において使われた用語の変遷

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例